新常識!?高血圧と塩分の正しい関係とは?

塩分は控えめに」は、多くの人が知っている健康法の1つですね。

特に高血圧の人には良い健康法と言われ、家庭でも減塩を心掛けている人は多いのではないでしょうか?

しかし、なぜ塩分の摂り過ぎが高血圧に悪いのか、知っていますか?

しかも近年、“塩分を控えても高血圧は改善しない”というデータも多く報告されているのです。

ここでは、高血圧の人と塩分の理想的な関係について解説します。

血圧と塩分の関係

私たちの体は、多くの化学反応と物理的法則によって生命活動を維持しています。

例えば「呼吸」。

空気中の酸素を体内に摂り込むことで“酸化”という化学反応を行っているのです。

また、食べ物の「消化」も加水分解という化学反応でタンパク質や糖質を分解しています。

それらの1つに、物質の「浸透」があります。

浸透とは“染み込む”ことですが、私たちの体を構成する細胞の膜や組織の中を物質が通過するとき、

この浸透を利用しています。

しかし何もかもが自由に染み出してしまったら、私たちの体に必要な物質を蓄えておけませんね。

実は、細胞膜は“半透膜”と呼ばれる薄い膜で構成されています。

半透膜には非常に小さな穴が開いており、小さな分子であれば通り抜けることができます

つまり、ごく小さい物質は通すけれど、それ以外は通さないという

“フィルター”のような役割をしているわけです。

 
そして、自然界には「拡散」という法則があります。

例えば、水に角砂糖を入れて放置しておくと、

初めは溶けた砂糖が沈殿して上部は薄く、下部は濃い状態になっていますが、

数日後にはかき回していなくても全体が同じ濃度になります。

これが「拡散」で、できるだけ分散して安定化した状態になろうとする自然現象なのです。

濃度の異なる砂糖水のような溶液の間に半透膜が存在しても、

拡散により、濃度を均一にして安定化しようとする現象が起こるのです。

ただし、半透膜には小さな穴しか開いていないので、砂糖のような大きな分子は少ない方に移動できず、

小さい水の分子だけが、濃い砂糖水側(砂糖の量が多い=水の量が少ない)へ移動してしまいます。

 
このときの分子が移動する力…

簡単に表現すると、濃い側の溶液が均一になろうとして水分子を引き込もうとする力のことを

浸透圧」といいます。

浸透圧が上昇すると、水分子が引き込まれやすくなるわけです。

例えば、しょっぱいものを食べ過ぎたとき、とても喉が渇きますよね?

しょっぱいもの…つまり塩分は、食べ物の消化と共に血液中に摂り込まれていきます。

そして体は塩分濃度が高くなった血液を薄めようとして体内の水分を血液中に送り込み、

腎臓での水分の排出を抑制します。

喉がとても乾くのも、摂り過ぎた塩分を薄めようとしているわけなのです。

しかし、水で薄めた分、血液の総量は増えてしまいますが、血管の長さに変化はありません

同じ体積の風船に、前よりもたくさんの空気を吹き込んだら、風船の内側にかかる圧力は高くなりますね。

これと同じことが血管で起こると、

血管内の圧力が高まる…つまり血圧が高くなってしまうことになるのです。

これが、塩分を摂り過ぎると高血圧になると言われる大きな理由です。

減塩を心掛ければ血液中の浸透圧を低くすることができるので、

血液の総量が増えずに済み、血圧も上がらないというわけなのです。

塩分の正体と役割

では、そもそも「塩分」とは何でしょうか?

一般的に、塩分とは元素「Na(ナトリウム)」を含む化合物のことで、

体内ではカリウムやカルシウムなどと相互作用しあうことで、とても重要な働きをしています。

ナトリウムは体内ではNa+(ナトリウムイオン)の状態で存在し、

細胞の膜に存在する「Naチャネル」や「Naポンプ」によって

細胞の内外に存在する量をコントロールされています。

実はこのナトリウムが細胞に出入りすることで、

  • 体液の量の調整及び浸透圧の調整
  • 筋肉の収縮作用
  • 神経の興奮作用
  • 腸からの栄養素の吸収
などが可能となるのです。

ナトリウムは私たちの生命活動を支える物質なんですね。

 
さて、ナトリウムは化合物として私たちの身近にたくさん存在しています。

塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウムなどは調味料にも使われているので、

加工食品の原材料表示で見かけることが多いナトリウムの化合物です。

特に塩化ナトリウムは「食塩」の主成分で、世界に通用する国際食品規格委員会(コーデックス委員会)では

食用塩の品質として塩化ナトリウムの純度を97%以上と定めています。

高血圧の人にとって悪者扱いされる食塩ですが、

高血圧の原因になるのは食塩だけでなく、ナトリウムを含むすべての塩分ということになります。

高血圧の人の塩分量

そうはいっても、食品中のナトリウム量を把握するのは難しいのが現実です。

食塩だけでなく、

旨味成分であるアミノ酸塩(グルタミン酸ナトリウムなど)にもナトリウムは含まれてるからです。

毎日の食事からナトリウム量を知るのは不可能ですね。

そこで、計量しやすい「食塩量」としてナトリウムの概算の量を把握しようとしているわけです。

加工食品であれば栄養成分表示の欄にナトリウムの含有量が明記されているので、

実際のナトリウム量を知ることができます。

この中には食塩由来だけでなく、すべてのナトリウムが含まれていますから、

その食品に含まれるナトリウムの総量として把握することができるわけですね。

しかし、ナトリウムの単位は“㎎(1gの1000分の1)”で、イメージしやすい“食塩の量”ではありません。

そこで、便宜的に“食品中のナトリウムがすべて食塩由来だったら”と仮定して、

ナトリウム量を食塩量に換算したものが「食塩相当量」です。

化学の話になってしまうので省略しますが、分子量で計算すると食塩相当量とナトリウムの間には、

メモ
食塩相当量(㎎)=ナトリウム(㎎)×2.54
計算の例
例)おせんべい1枚のナトリウム量78mgから食塩相当量を計算する場合

   食塩相当量 = 78 mg×2.54 = 198.12 ㎎ = 0.198 g ≒ 0.2 g

という関係が成り立ちます。

インスタントラーメンやおせんべいのようにナトリウムを多く含む加工食品には、

予め食塩相当量が表示されているものもありますが、

この計算式を知っていればナトリウム表示量だけでも食塩相当量を知ることができますので、

覚えておくと良いでしょう。

 
では、どれくらいの量の塩分なら問題がないのでしょうか。

食塩相当量について、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2015年版)」によれば、

“18歳以上の男性は1日当たり8.0g未満、18歳以上の女性は1日当たり7.0g未満”

という目標量を定めています。

ただし、日本高血圧学会減塩委員会では、

高血圧予防のために1日6g未満という制限を勧めています。

一方、通常の食生活における食塩摂取量の実態(2012年)は、

男性 11.3g
女性  9.6g

と発表されているので、

厚生労働省の目標量を達成するには男女とも小さじ1杯弱の塩分をカットしなければなりませんね。

日本高血圧学会の推奨量“6g”にするには、男性なら約半分にまで減らす必要があります。

どちらの量を目標にするにしても、かなり厳しいと言えますね。

私たちの食文化“和食”は、脂肪分の少ない食事として世界的にも健康食と認識されていますが、

唯一の難点は欧米諸国の食事に比べ、塩分の含有量が非常に高いという点です。

日本人の味覚は濃いめの味付けに慣れているといって良いでしょう。

このため、日本の目標値はこれでも緩い方で、WHO(世界保健機関)では、食塩摂取目標を1日5g、

米国では心血管疾患予防のためのガイドラインとして最大摂取量が1日3.8~6.0gとしています。

世界の基準はもっとハードルが高いということを、知っておきましょう。

塩分は本当に健康に悪いのか

さて、この厳しい減塩を実行するからにはどのくらいの効果があるのか、とても気になりますよね。

これに関しては、世界中の研究者が様々なデータを報告していますので、紹介しましょう。

高血圧の改善に「減塩の効果はある」

国立循環器病センター・循環器病情報サービスでは「高血圧改善に対する減塩の効果は非常に高い」として、

各国のデータを紹介し、減塩を推奨しています。

中でも興味深いデータが、米国で行われたDASH-Sodium研究です。

この研究から、食塩が1日約9gの食事に比べ、

約6gの食事では血圧が低く、約3gの食事ではさらに下がることがわかりました。

このときの血圧低下の効果(降圧効果)は、個人差があるものの平均すると食塩を1日1g減らすごとに、

高血圧の人で上の血圧は1mmHgくらい、下の血圧は0.5mmHgくらい下がり、

正常血圧の人はその半分くらい下がるそうです。

同センターでは、

「平均的な日本人の摂取量である10~11gの食塩を摂っていた高血圧の人が6gにできれば、

血圧は5mmHgくらい下がります。日本人全体でみれば、脳卒中などの予防に大きな意味があります。」

としています。

 
また、減塩の効果は直接的な降圧作用だけでなく、

血圧を下げる薬(降圧薬)を効きやすくするという報告もあります。

もちろん薬の種類によって差はありますが、薬が効きやすくなれば服用する量を減らすことができ、

医療費も軽減できるメリットが生まれます。

さらに、血圧の影響のない培養液の中の実験において、

心筋細胞はナトリウムが多いと肥大することがわかっています。

これが生体内で起これば「心肥大」となり、心不全を起こす可能性も考えられます。

心筋に関しては血圧の高低に関わらず、減塩の健康効果は大きいというところでしょう。

高血圧の改善に「減塩の効果は低い」

一方で、反対の意見もあります。

もちろん、心臓や腎臓など他の臓器でも減塩のメリットは大きいので、

減塩は健康に良い方法であることに間違いはありません

しかし、「減塩すれば血圧が下げられるのか」というと、必ずしもそうではないという意見もあるのです。

その理由は、高血圧には塩分の影響を受けやすい「食塩感受性高血圧」と、

塩分の摂取とは関係ない「食塩非感受性高血圧があるためです。

 
食塩感受性高血圧とは、食塩を摂取することで引き起こされる高血圧のことです。

この高血圧になる人は摂った塩分を体内に溜めておこうとする傾向(食塩感受性が高い)にあり、

詳しいメカニズムは解明されていませんが、東京大学・藤田教授の研究チームによると、

食塩感受性タイプの人は腎臓でのナトリウム排出機能に障害が生じやすいため、

塩分を多くとると、腎臓の交感神経の活動が促進され、

塩分の排出を担う遺伝子の働きが抑制されやすくなるそうです。

このため、血液中のナトリウム濃度が上昇して水分を引き留め、血液量が増える結果、

血圧が上昇すると考えられています。

食塩の摂り過ぎが腎臓でのナトリウムの排出を抑制するきっかけとなるために

高血圧になるということです。

ですから、冒頭の「減塩すれば血圧が下げられるのか」という疑問は、

食塩感受性高血圧の人にとっては効果がある」といえるわけです。

このような塩分感受性タイプの人の割合は人種間で差があることがわかっており、

黒人は約80%、白人は30%、黄色人種はその中間で、日本人はおよそ4割が該当するといわれています。

 
では、食塩非感受性高血圧の人では減塩の効果はあるのでしょうか?

残念ながら、食塩感受性タイプの人ほどの効果は見られないとされています。

つまり、日本人の高血圧患者の約6割は減塩だけでは高血圧の大きな改善は期待できないのです。

では、食塩非感受性タイプの人が高血圧になる原因は何なのでしょうか?

オムロンによると、タンパク質の一種(アンジオテンシンⅡ)が血管中にとりこまれ、

その作用によって血管の収縮が生じ、高血圧になるという仕組みがほぼ解明されているそうです。

食塩非感受性の人はナトリウム量よりも血管が収縮する要因によって高血圧が発症するということですね。

 
高血圧を改善するためには、自分がどちらのタイプか知りたいところですが、

現在、食塩感受性高血圧についての明確な定義や診断基準が設けられていないため、

検査数値などからタイプを知ることはできません。

しかし、自宅などに血圧計があって小まめに測定できるなら、

減塩生活を実行し、その前後の血圧に変化があるかを調べてみるのが良い方法です。

減塩後の血圧が低下していたら、食塩感受性高血圧の可能性がありますから、

味気なくても減塩生活には大きな価値があるといえるでしょう。

 
しかし、勘違いしてはいけないのは、

食塩非感受性タイプなら減塩しなくてよいのかというと、決してそうではないということです。

このタイプの人は「減塩が高血圧の改善に効果的でない」というだけで、

「減塩が健康に良い」ことを否定するものではないからです。

前述の通り、体内にナトリウムが一時的にでも蓄積されれば、

その間水分も引き留められ、血液量が増して血圧が上がります。

また、心筋にはナトリウムに反応する性質がありますし、他の臓器への負担が大きくなるのも事実です。

食塩非感受性タイプの人は極端な減塩生活を送る必要はないかもしれませんが、

体への負担を考えれば適正な塩分摂取に努め、健康な血管を維持できるよう、

適度な運動を採り入れた生活を送るように心掛けると良いでしょう。

 
ただし、生物にとってナトリウムは非常に重要な物質です。

古来より、塩は貿易の要となるほど珍重されており、

“敵に塩を送る”という諺や“塩抜き”と称される刑罰があるほど、

塩分は生命活動に必要なものとして認識されてきました。

しかし、近年では過度な減塩により体内のナトリウムが欠乏することで昏睡状態になったり、

熱中症痙攣を発症したりする事例も増えています。

塩分は摂らなければ良いのではなく、適度に摂ることが良いのです。

ただ、その適量が人によって異なるという点は、心に留めておくようにしましょう。

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